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非営利法人会計はどうあるべきか
          ぎょうせい刊 月刊ガバナンス2001年8月号

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東京から記者が取材に来られ、常に主張していることを記事にしてくれました。

「ミッション遂行のための会計」

 今年4月、日本公認会計士協会近畿会非営利会計委員会(委員長・中務裕之公認会計士)は、「特定非営利活動法人の計算書類の実態調査並びにモデル記載例」(以下、「13年報告書」)を公表した。
 同委員会は、昨年12月までに大阪府に事業報告書等を提出した98のNPO法人を対象に実態調査を実施。
その結果、NPO法人の計算書類について様々な問題点を指摘した。
 特に問題なのは、収支計算書と貸借対照表の関連付けが充分になされていないことだ。
「収支計算書の『当期収支差額』と、貸借対照表の『正味財産増減額』との調整が行われていないものが見受けられた。計算書類の全体をみて法人の状況を把握するのだから、両者の関連づけがきちんとされていることは極めて重要」と中務さんは話す。
 ただ、13年報告書では、「不備事項の範囲は多岐にわたるが、内容的には、少し注意をして計算書類をチェックすれば、かなりの不備事項は、解消する」としている。
 なにより重要なのは、中務さんの次の指摘だ。
「内閣府等の会計手引きのひな型の丸写し的なものが多かった。しかし、法人のミッション遂行のために、どのような会計情報の開示が有益であるかという視点が重要だ。法律上の義務だから、あるいは所轄庁に提出すれば終わり、という発想は間違い」
 その意味で、中務さんが評価するのは、法定の書類(収支計算書、貸借対照表、財産目録)に加えて揖益計算書を提出した団体があることだ。
「事業型NPOは、予算対比型の収支計算書よりも、企業会計的発想の揖益計算書を作ったほうが、自分の経営判断のためにも、外部への情報公開のためにも望ましい」と話す。

「バラバラの非営利法人会計」

ところで、同委員会は、12年12月に「非営利法人統一会計基準についての報告書」(以下、「12年報告書」)を公開している。
「13年報告書は、ほとんどの法人が内閣府等の手引きを参考にしている現状を踏まえ、それに倣ったモデル記載例を提示している。しかし、われわれは、12年報告書で、より多くの利害関係者にわかりやすく会計情報を開示するために、NPO法人のみならず、あらゆる非営利法人の会計基準の統一化を提言している。それも、出来る限り企業会計との乖離が小さい方が望ましい」と中務さん。
 12年報告書にあるように、現状は、公益法人、学校法人、社会福祉法人など法人の種類ごとに、実に多様な会計基準が制定されている。作成する計算書類、収支計算書の資金の範囲、減価償却の有無などもバラバラで、全く統一が図られていない。
 その理由を、12年報告書では「非営利法人の場合、所轄官庁による認可主義が大きなウェイトを占め、それらの許認可、監督等の行政目的が優先し、それが会計基準に反映しているため」と推測している。

「相手にわかるようにするのが会計」

 シーズが平成10年に公開した「NPO法人等の会計指針公開草案」(以下、シーズ草案)の作成に関わった水口剛公認会計士もほぼ同様の問題意識をもっている。
「シーズ草案では、NPO法人の会計基準として企業会計に近いものを提案しているが、少なくともNPO法人に関しては、公益法人会計の発想を持ち込むことには弊害が大きい
と考えている」
 各種非営利法人会計基準は基本的に公益法人会計基準に基づいて作られている。企業会計と公益法人会計の主な違いは図表のとおり、計算書類の種類や仕訳方法に主な違いがあ
る。複式簿記から、貸借対照表と収支計算書と正味財産増減計算書を導き出すには1取引2仕訳という非常に難しい仕訳が必要であることをはじめ、公益法人会計は会計専門家か
ら見ても難解であるという。
「理論的にどちらが正しいという問題ではなく、どちらが一般に理解しやすいかという観点から考えるべき。会計はアカウンタビリティの一環であhリ、アカウンタビリティとは相手にわかるように説明することです」と水口さんは話す。
 実際、商業高枚では企業会計を教え、簿記検定、税理士や会計士試験も企業会計で行
われている。企業の経理担当者や退職者がボランティアで非営利法人に関わる際にも、企業会計に近いほうがやりやすいだろう。.

「会計基準統一に異論も」

 もちろん、非営利法人会計基準の統一には異論もある。日本公認会計士協会非営利法人委員会の元委員・田中義幸公認会計士は、非営利法人会計の統一には反対の立場だ。
「まず、法人ごとに会計の位置付けや重要性が違うことを認識すべきだ。それぞれ特徴をもち、法律上のしばりもある。それを一律に規格化するのは問題ではないか。特に、損益計算書は、利益の最大化や効率最優先という発想を含んでいる。非営利法人、特に宗教法人にはなじまない」と話す。
 中務さんは、法人格ごとの特徴については注記で補うことが可能とした上で次のように話す。
「子どもが大学に入学する時に、学校法人会計を勉強しなければ学枚の状況を理解できないとか、親が特別養護老人ホームに入所する時には社会福祉法人会計を知らなければなら
ないという状況では、利用者が真に自己責任を取れる情報開示とは言えないのではないか」
 また、利益最大化等の問題について水口さんは次のように話す。
「収支計算書は予算使いきり主義に陥りやすく非効率性を強める恐れがある。一方で、損益計算書には、確かに利益至上主義に陥る恐れがある。しかし、揖益計算書方式でも、損益の部分にのみ着目するのではなく、事業のプロセスを重視する考え方が普及すれば弊害はなくなるのではないか」
 これらの意見を受け田中さんは、「何でも画一化しょうとする発想はどうだろうか。国も組織も人も、もちろん会計も多様なあり方を認め合い、自主性を重んじる方向が大切だ」
と話す。
 現在、内閣総理大臣官房管理室長の下に置かれた公益法人会計基準検討会(座長/加古宜士・早稲田大学商学部教授)が「公益法人会計基準の構成及び内容に関する問題点とそ
の改善策」などを検討している。
近々、中間報告が出され、パブリックコメントに付されるとのことだ。非営利法人会計のあり方を議論する絶好の機会である。
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「自己責任時代」といわれる昨今だが、その前提は「情報公開」だ。その重要な一部である会計情報をどのような形で公開するべきか!NPO法人が自己のミッション遂行に適
した会計情報開示を追求するとともに、非常利セクター全体として、あるべき会計基準に向けた議論を深める必要がある。        (本誌/田中 泰)